技術者たちよサボらないで! 全ての花嫁に和装の美を体験してほしい

前撮りの普及もあって、結婚式で和装をお召しになる花嫁さんは一時期より増加しています。
でも、残念ながら、年々質が落ちてしまっている。
それを実感したのは、ネット上のたくさんの和装写真を比較してでした。

昔ながらの着付けや写真でなければいけないということではありません。
新しい感覚も大いに取り入れるべきです。
でも、「新しい」と称して、基礎として持っているべき知識や技術を怠っているのではないか。
美しい花嫁姿をつくり、日本独自の文化を残していくために必要なことを、サービスを提供する側が”サボっている”と思うのです。

「おからげ」をサボらないでほしい

「おからげ」とは、着物の裾を身丈に合わせて持ち上げること。
元の言葉「からげる」には、

②着物の裾(すそ)や袂(たもと)をまくり上げて,落ちないようにとめる。
「裾を-・げて走る」 「尻を-・げる」

とありました。

打掛にしても引振袖にしても、裾を引いて歩ける場所以外では裾を持ち上げます。
引きずって歩くのは、衣裳が汚れるだけでなく、重量もかかって結構大変だからです。
移動する度に衣裳を持ち上げて持たせ、移動が完了したら引いた形に戻す、という作業を介添(または美容)が行います。

参進

会場外の神社へ移動するとか、会場内でもちょっと長い距離を歩くという場合は、花嫁さんが片手で着物を持ち続けるのも大変なので、着付け用の道具(コーリンベルト)を使って留めてしまいます。

この留めてしまう状態は、あくまでも移動のための手段です。
和装着付けの完成形ではありません。
なのに、これを完成形だと思っているのではないか?と考えてしまう写真を本当に多く見ます。
冒頭で、質が落ちていると感じたのはそのためです。

一時固定の手段であるコーリンベルトがばっちり映っている写真。
本来見えてはいけないものです。
手で隠しているならまだしも、見えていても気にしていないようなポーズやアングル。
美しくないですよね?

私の周りの技術者たちは、当たり前のようにおからげとお引きを何度もやり直してくれます。
だから、コーリンベルト丸見えの写真を見て「サボりだ!」と思っていました。
しかし、とある経験を通して、実はできないからでは?思うようになったのです。

とある現場でのこと、介添が初心者でおからげができないと……。
ぐちゃぐちゃになっても困るので、からげたままにするしかない……。

知らない・できないスタッフが今はたくさんいる。
それがあり得ない環境にいると、ちゃんと知っていてよ、できるようになってよ、と思いますが、
知らない・できないのが当たり前の環境では、知らない人が教える立場になり、知らないのを基準に新人を教育して、また知らない人が増えていく。
その悪循環は、経営側がそれではまずいと思わない限り、断ち切ることはできません。

裾をからげて手で持つことを「褄を取る」と言います。
どちらの手で褄を取るか、立場によって違います。
「左褄」が代名詞になっているのが芸者さん。
芸だけを売り、身は売らないことの表明として、裾に手が入らないよう左側で褄を持ちます。
花嫁さんはその反対、右側で褄を取ります。
(貞操云々とは真逆なのですが、この場合は夫の手がすんなり裾に入るように、という夫婦和合の願いがこもっています。昔ながらの考え方からきています。)
左右を間違ってはいけないのですが、そのうち左手で褄を取らせるスタッフも出てくるじゃないか、そうなったらいよいよだなと思います……。

からげたままにして起こること

サボらないでほしい、もう1つの大きな理由。
写真が美しいものにならないからです。

正面から見てちょうどいい丈で着物を留めて、あおりのアングルで写真を撮ると、着丈が短く写ります。
上から撮るのと、下から撮るのでは、裾の位置が異なって見えるのは当然。
だから、カメラの角度に合わせて、必要ならおからげをし直し、きれいに写るようにするのです。

そもそも和装であおった写真を撮ること自体が昔はあまりなかったのですが、今のスナップ的な写真だとあおったものもよく見かけるようになりました。
ムービーとかスナップ的なカットなら、着丈が少々短くてもライブ感にもなるので、それはそれと思います。
が、ポーズ写真的に撮るのなら、最も美しい状態に整えるべきです。

和装(ドレスももちろん)には、美しいとされる「黄金バランス」があります。
それを知っているか、シーンごとにバランスを適切に保つための手間をかけているか。
そこが質の違いになって残ります。

裾の丈だけではありません。
綿帽子の位置や新郎の袴の腰や裾の位置にも同じことが言えます。
顔が隠れるくらいが最も美しい綿帽子ですが、撮影では顔が見えたほうがいいので上げ気味に被せます。
しかし、撮影時も通常も同じ位置のままなのか、やたら上で被せている綿帽子姿を見ると、残念に思うのです。

美容、カメラマン、介添の知識と技術

昔は、美容さんもカメラマンさんも、介添さんも知っているので、持ち場持ち場でチェックして、花嫁の美しさをつくっていました。
人の仕事に介入をしないように気を付けていた、という時代です。
みんなが知っているからお互いにチェックもできたわけです。

今は、そのうちの1人しかできない、ということも往々にしてあるとか。
ポーズをつくる「振付け」を美容に丸投げされたり、美容が見るべき着物の修正にカメラマンが手を出さざるを得なかったり、介添さんが業を煮やして口を挟んだりするようなことも少なくないと聞きます。

実は「まとう」を始めたきっかけも、そういう話を聞いたからでした。
花嫁さんが着物好きだと、プロにも負けない知識を持っていることも多い。
なのに、利用した先の美容やカメラマン、介添やプランナーが知識を持たない人ばかりということもあり得る。
そうなったら、どんなに後悔するだろうと。
サンプル写真は完璧、というところだと、知識のなさがわからずに挙式披露宴や撮影日当日を迎えてしまうこともあり得るからです。

着物好きな花嫁さんに後悔なんてしてほしくないから、知識も技術もあるスタッフと出会ってほしい。
そのためのお手伝いをしたい、と思ったからなのです。

長い文章を最後まで読んでいただいた方には、依頼する候補業者の見極めのためのヒントを1つ。
サイトやSNSの写真にコーリンベルトが映っていたり、手で持たせていない写真しかなければ、知識も技術もない可能性が高いです。
(前述のように移動中などは除外です、その前提でチェックしてくださいね。)

余談:壺装束リバイバル

花嫁用の和装小物に「抱帯(かかえおび)」というものがあります。
七五三の小物にも同じものがあり、房の付いた薄手の帯のことを指します。
現代では帯の下部に飾りのように巻いていますが、本来はからげた裾を押さえるためのものでした。

裾を上げたままにするなら、一般の着物のようにおはしょりを取って着せればいいじゃないか、と思うのです。
わざわざコーリンベルトで簡易的な留め方をしなくても、掛帯を本来の使い方で使う着付けをすればいい。

打掛じゃ無理じゃない?と思いきや、平安時代以降の女性の旅や移動のための着物の着方で「壺装束」というものがありました。
いいじゃない、壺装束!
織りの打掛だとちょっと固くて大変かもしれませんが、おからげだって衣裳を織り込むんだからできないことはない。
武家の女性たちは打掛を着ていたわけなので、移動時は同様に抱え帯で固定していたはずですしね。
ちらっと抱え帯が見えても、きっときれいですよ。

コトバンク/精選版 日本国語大辞典

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