日本の着物の原点 十二単

先日、全日本婚礼美容協会の勉強会に参加させていただき、初めて十二単(女房装束)の着付けの様子を拝見しました。

十二単は平安時代に確立した女性の装束ですが、日本オリジナルの衣裳で、いわば国風文化の象徴。
公家の衣裳である十二単から派生して現代の着物になっているわけで、私は日本の着物の原点だと思っています。
『源氏物語』を読むには衣裳の知識は欠かせないのですが、着る過程はなかなか見る機会がなかったので、とても楽しみに伺いました。

五衣・小袿・長袴姿

最初に拝見したのは、皇后陛下が5月8日の「期日奉告の儀」でお召しになられたのと同様の、御五衣御小袿御長袴姿。
(皇后陛下のお召し物には「御」がつくそうです)

御五衣

儀礼に臨む際の服装としては、この小袿姿が最も多いそうです。
宮中三殿に参る場合でも、普段着寄りの小袿が慣例だというのを初めて知りました。
しゅっしゅっと衣擦れの音が心地よかったです。

襲色目はセンスの見せ所

十二単の袖は上に着るものほど丈が短くなっていて、写真のように色が重なって見えるわけです。
この襟や袖のカラーコーディネート=襲色が、その人のセンスを表すとされて、とても重要視されました。
女性の場合は人前に全身をさらすことはしませんでしたが、宮中や貴族の屋敷に仕える女官たちは「出衣(いだしぎぬ)」と言って御簾などの下から袖を外に見せることを行っていました。
牛車に乗る際にも行われていたらしく、女官たちのセンスがその家の主人のセンスを類推させたのかもしれません。

現代の着物にも、枚数は減ってはいるものの、襟や袖の重なりが残っていますよね。
留袖や振袖など、礼装の場合は比翼仕立てになっていたり、伊達衿を挟んで着たりしますが、
これらは本来重ね着をするところを簡易的にしたもので、さかのぼれば十二単の重ね着が源流だと言えます。
黒留袖などは比翼の色も決まっていますが、振袖の場合はどんな色を入れるかでがらっと印象が変わるので、襲色目を知って参考にしてみるのもおすすめです。

ちなみに、唐衣・裳は成人女性の証です。
公家の場合、女性の成人式は「裳着」といい、文字通り裳を初めてつけることから。
裳は中国や韓国でも用いられていた、元はスカートのような服です。
平安時代にはこれがなぜか引き裾のような形になって残ったのですが、なぜこの形だったのでしょうね。

重い衣裳で7回拝礼

拝礼の手順も再現されました。

この拝礼を7回行うそうです。
中に入るのは皇后陛下のみ、女官は付き添わないそうなので、かなり大変。

おすべらかしの元結は5つ、2つ目のみ金で後は白です。

十二単の着付け

いよいよ着付けの見学。
10月22日の即位礼で皇后陛下がお召しになられたのと同様の、白色帛御五衣御唐衣御裳で実演です。
まず、襪 (しとうず) という、指が分かれていない足袋のようなものをはくことから。
もちろん絹製です。

白い小袖の上に長袴をつけます。
上皇后陛下から、ピンクの袴になったそうですが、本来は赤の袴の上に白を重ねてはく形だったそう。
うっすら赤が透けてピンクに見えるわけですか。

続いて、単。
今は袴の前に下着代わりの小袖を着ますが、かつてはこの単が肌着の役割だったそう。
素肌に直に着ていたのですね。

ちなみに小袖も、後世武家などでは1枚で着るようになり、今の着物の長着に変化しました。

続いて五衣。
1枚着て紐で押さえ、次の1枚を着て紐で押さえたら、下からその前の紐を抜く。
それを繰り返します。
五枚着つけたら、襟を左右それぞれ重ねて5枚ずつにして重ねなおす。
「解き合わせ」というそうです。

続いて、打衣。
張りのある生地でつくられており、これを着ると五衣の押さえにもなって、着姿も落ち着くとか。

更に表衣を着、その上に丈の短い唐衣を着ます。
腰に裳をつけて、その紐で衣裳全てをまとめて結びます。

ここまでは、五衣のところに書いたように、紐を結んだら下の紐を外す、ということを繰り返しており、
なんと、紐2本で着付けを進めているんです。
技術がなければあっという間に着崩れてしまいますよね。

最後に、掛帯という飾り帯を結んで完成。
手には檜扇を持ちます。

髪飾りは、白の衣裳の際には銀、色の際には金をつけるそうです。
丸に角が3本ついた平額は太陽を、その下にある櫛は月を表すとのこと。

ちなみに、前髪をこのように上げるのも成人女性の証。
女子の成人の儀式「裳着」の際には、初めての「髪上げ」もしていました。

早いと10分程度で着付けが完了するそうなんです、早い!
衣と紐を扱う所作がとても美しく、流れるようだったのですが、十二単を着る方を揺らさないように、尚且つしっかりと紐を結ぶことが必要だとか。
現代の着物の着付けも同じですよね。
上手な着付け師さんは着せられているほうも楽、紐も決してぎゅうぎゅう結んでいないのに、時間が経っても着崩れしないんです。
十二単や花嫁衣裳は普通の着物よりずっと重いので、一層着付け者の技術が問われますね。

白色帛の衣裳でも拝礼の実演が行われました。

女性の立場の変化

皇后陛下が宮中での拝礼を行うようになったのは最近のことで、この帛の衣裳も近年になって使われるようになったとか。
襲色にも「雪の襲」とか「氷の襲」という、白を重ねたものはあるのですが、儀式で白一色の十二単を着るというのは新しいしきたり。

有職故実と呼ばれる、儀礼や衣裳等に関するしきたりも本来は男性向けのもの。
今、有職故実についての授業を受けに行っているのですが、確かに出てくるのは男性のことばかりなんですよね。
そもそも儀礼というのは男性しか参加しないものでしたし、官位を授かった武家に対して知識を伝える意味合いも強かったでしょうから。
弓矢とか刀のこと、戦の後の「首検分」のしきたりまで出てきました(笑)

2018年のお正月に見た展示では、天皇の衣裳もありましたので、参考に貼っておきます。
黄櫨染御袍と帛御袍。

前に貼った出衣の画像も同じ展示で撮影したものです。
実物を見る機会は貴重でした。

女性の衣裳については身の回りのお世話をする女官が行っていたわけで、私的な場面でしか必要ないことですものね。
明治以降、女性たちが表に出るようになってから、女房装束の知識の必要もより高まった。
一般の女性の社会進出が進むのと同じくして、皇族女性もまた社会での役割が大きく重くなってきたということです。

十二単という衣裳は着用できる階級が決まっていた時代のもの。
個人的には気軽に着る気持ちにはなかなかなれませんが、文化として見たり調べたりするのは私にとってライフワーク化しています。
絵や写真ではなく、実際の十二単姿を今年はたくさん見ることができ、本当に楽しいです。

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